硝子体とは
硝子体とは、眼球の内側の大部分を占めるゼリー状で透明の組織です。角膜や水晶体を通ってきた光をロスなく網膜へと届けたり、眼球の形状を維持したりする役割を担っています。
硝子体と水晶体の違いは?
硝子体と水晶体は、発音が似ており、漢字の意味も近いためか、しばしば混同されます。
位置関係でいうと、前方からまず角膜があり、虹彩を挟んで水晶体、その奥に硝子体があります(その後ろには網膜があります)。
眼はよくカメラに例えられますが、その場合水晶体は“レンズ”に当てはまります。網膜は“フィルム”、そして硝子体は“カメラ内部の空間”にそれぞれ該当します。
また水晶体は、眼に入ってくる光を屈折させて集光し、網膜に焦点を合わせる役割を主に担っています。
網膜硝子体手術とは
網膜硝子体手術(「硝子体手術」とも)は、様々な眼底疾患や硝子体出血・混濁に対して、硝子体を切除し網膜疾患に適切な処置をしたり、濁ったり血液が溜まったりした硝子体を取り除くことで、網膜硝子体の病気を治すための手術です。通常、白目部分に小さな孔(あな)を3つあけ、そこから器具を挿入し、硝子体や網膜の処置を行います。病気の種類によって、それ以外にもさまざまな処置が行われます。当院は0.5㎜程の極小切開創からこの手術をしていますが、手術創が小さいほど侵襲が少ないので、手術後早期に日常生活に戻ることが可能です。
網膜硝子体手術は眼科で行われる手術の中でも高度であり、執刀医には十分な知識と経験が求められます。
網膜硝子体手術が適応となる目の病気
糖尿病網膜症
糖尿病の合併症の1つです。高血糖や動脈硬化によって網膜血管が障害され、ひいては神経自体が障害されます。かなり進行するまで自覚症状がない一方で、大幅な視力低下や失明の原因にもなる病気です。
中程度以上に悪化した場合は、その後血糖が安定しても、目の障害は回復しません。
網膜硝子体手術の手順・流れ
1準備・消毒
手術開始の前から準備の目薬を何回もいれます。
手術室に入ると仰向けの状態になり、眼のまわりや表面を消毒した上で、眼を開いた状態で固定するための器具を当てます。
2麻酔・安静
点眼麻酔に加えて、眼球後方へテノン嚢下麻酔をします。麻酔注射時に軽い痛みはあっても、その後は1時間以上痛みはありません。また、手術の前に緊張を和らげるお薬を使用します。手術途中で痛みや血圧上昇、気分不良などを生じても、即時に適切に対処します。
3手術
手術の所要時間は大部分の症例で30分から1時間ですが、難症例では2~3時間を要する場合があります。
局所麻酔ですので、意識は残っており、何か気になる時には口頭でお伝えください。
ただし、医師は大変細かい作業をしておりますので、できるだけ身体の力を抜き、眼や顔を動かさないようにご協力をお願いします。
術後の過ごし方・注意点
感染予防のためにも、手術後の過ごし方については医師の指示をしっかりとお守りくださいますようお願いします。
なお一貫して、眼や眼のまわりは触らないようにしてください。小まめに手洗いをし、手を清潔に保つことも大切です。
術後の経過
当日(翌日)
手術後は眼帯をしてお帰りいただけます。車の運転はできませんので、公共交通機関、ご家族の運転する車などをご利用になってください。ご帰宅後も、ベッドで横になりできる限り安静にしてください。また症例によっては、姿勢の制限が生じることがあり、その場合は医師の指示に従ってください。
当日・翌日とも、シャワー、入浴、洗顔、洗髪をお控えください。眼のまわりを避け、絞ったタオルでお顔や身体を拭く程度に留めてください。また、スマホ、パソコン、テレビ、読書など、眼を使う行為は極力避け、安静に努めてくださいますようお願いします。
術後の1週間
手術3日後から、シャワー、入浴は再開可能です。ただし、洗顔はまだお控えください。
同時期から、デスクワークは再開が可能ですが、眼が疲れないように時間を短くしたり、休憩を挟むようにしてください。
車の運転の再開ができる時期ですが、必ず事前に医師の許可を得るようにします。
術後の1週間後以降
手術後1週間が過ぎれば、洗顔や洗髪の再開が可能です。眼のまわりを避けたメイクも再開できます。
肉体労働、激しい運動の再開については、術後2週間~1カ月が経過してからとなります。医師と相談の上、適切な時期に再開するようにしましょう。
術後の見え方は?
網膜硝子体手術は、白内障手術のようにすぐに見え方が改善することはありません。
疾患の種類と程度によりますが、視力の回復を実感するまでに、数カ月を要することもあります。また、硝子体出血の場合には、さらに視力の回復に時間がかかったり、回復自体が困難なこともあります。
どのような見え方が期待できるか、手術前にできる限りの予想をしてお伝えしますが、必ずしもその通りになるとは限らないことをご理解ください。
術中や術後の合併症(後遺症)が起きる可能性は?
網膜硝子体手術の術中や術後に、以下のような合併症が起こる可能性があります。
ただ、見え方に大きな影響を及ぼすような合併症が起こる頻度は極めて低く、ほとんどは適切な処置により対応が可能です。
黄斑円孔
網膜の中心に孔があいてしまう合併症です。
この場合、手術の最後で医療用のガスを充填し、孔を塞ぎます。
網膜裂孔・網膜剥離
網膜の弱い部分が裂けてしまったり(網膜裂孔)、網膜が剥がれてしまうこと(網膜剥離)があります。
網膜裂孔の場合にはレーザーで裂け目を塞ぎ、網膜剥離の場合には医療用のガスを充填し、それぞれ対処します。
白内障
網膜硝子体手術を単独で行った場合、術後しばらくが過ぎてから、白内障が生じることがあります。
同時に、または時期をずらして白内障手術を行うことで、合併を防ぐことができます。
硝子体出血
何らかの原因によって眼内で出血が起こり、術後に視力が低下することがあります。
出血の量が多い場合には、その出血を除去する処置が必要になります。
眼圧の上昇
手術後、一時的に眼圧が上昇することがあります。
点眼薬や内服薬にて眼圧を下げます。
眼内炎
手術後、細菌に感染し強い炎症が起こることがあります。毒性の強い場合には、失明に至ることがあります。
眼内炎が起こった場合には、感染巣を取り除く手術が必要になります。
硝子体手術後のうつ伏せの期間
黄斑円孔や網膜剥離などに対する硝子体手術では、手術の最後に医療用のガスを注入します。この場合、術後は1日~2週間にわたって、食事・トイレ以外の「うつ伏せ」の姿勢を維持しながら生活をする必要があります。
当院では、うつ伏せが必要になりそうかどうか、必要な場合はその期間の目安など、事前にお伝えし、患者様のご負担をできる限り軽減できるよう努めています。